スポーツ・コミュニケーション論研究
ー体験学習の実態調査ー
依田充代・村本和世・鄭 泰應・内山 徹
(平成12年2月20日)
2、研究の方法
この研究をすすめるに当たりいくつかの山村留学の実態を調査した。例えば、北海道の山村留学では山村留学制度の宣伝・募集活動について19町村のうち17町村でマスコミへ広告の依頼、友人知人を通じて宣伝など、新たな募集活動をしなければ、留学生が確保できない状況が報告されている。また、教育委員会から見た山村留学を導入したことによる制度上の問題点・課題として「里親制度を確保・拡充することに困難」と若干ながらも感じている教委は52.6%、「里親の精神的負担の多さ」をあげている教委は47.4%、「受け入れる留学生によっては、教育指導上問題がある」26.3%、「学校・教員の負担が大きい」31.6%と学校・地域全体の山村留学での「負の側面」が報告されている。
そこで本調査対象地として個人(家族)で留学生を受け入れているA氏の農村留学をとりあげた。本対象地は非常に特徴を持った教育実践を行っており、またそれが成果をあげていることも明らかである。山村留学や体験留学というと、地域や学校が主体であるという行政的つくりが多い中で、一個人が一家族で実戦し子どもたちを家族として育てるという形態の中で、子どもたちの親代わりに地域や学校と関わっていく取り組みは、これまで報告されている山村留学の「負の側面」をカバーできる取り組みである。ここでは、個人(家族)で留学生を受け入れているA氏の農村留学と体験学習の効果、子どもたちのスポーツ・コミュニケーションの可能性を明らかにする。
3、調査の概要
(1)農村体験制度の概要
農村体験制度は@1〜2週間日程の農村体験短期教室、A1週間以上年中任意期間とする農村生活体験・農村移住相談、B1年単位の農村留学と大きく三つに分かれている。それぞれの内容は表1に示すとおりである。(表1)
(2)農村留学についての方針
A氏はこの農村体験制度に対し「自分の五感で持って自然と向き合う生活の場を提起したい。土にまみれ、動物に触れ、人に出会う。世の中大地に生きる道もある」と述べている。また、農村体験制度をもう一つの学校「大地の学校」と名付け、政治団体や宗教団体とは無縁の地域の信頼と協力を得て活動を行っている。
国や地域からの補助金は全く受けつけていないということがこの農村体験制度の大きな特徴である。これはA氏の意志であり、これからも当てにしてはいないという。この農村留学により、地域の小学校や中学校のこども数が増えていることや、農村体験制度をきっかけにこの地域に移住し、過疎化が進むこの町に貢献していることは明らかである。しかし、地域と学校で取り組んでいる「山村留学制度」とは明らかに違うという想いを持っている。つまり町のためではなく、子どもたちのための「もう一つの学校」であるという方針である。よって、夏休み子どもたちが期間に制限されず自由に活動し、思う存分遊べる期間と考え「大地の学校」が閉鎖されることがない。普段以上に活動が重視される期間である。過疎地域振興対策としてではなく、都会育ちの子どもたちにとって何が必要かという視点からである。また、里親制度というボランティア的な受け入れ方でなく、A氏夫妻が生活全般の責任を持って子どもたちを育てるという方針を持っていることが、この農村留学制度の特徴である。
(3)農村留学受け入れ状況について
この留学地には86年夏に1〜2週間の短期体験教室を開設以来400人以上の若者が参加している。95年度から小学生の農村留学制度を取り入れ一年間単位での留学制度の実施を行うようになった。留学第1期生は3年生から6年生までの6人の児童を受け入れ,第2期・第3期生はそれぞれ8人,98年度からは中学生の留学も開始し,4期生は小学生9人・中学生2人,99年度の第5期生は小学生7人・中学生7人・実習生1人の合計15人の子どもたちを受け入れている。
(4)農村留学の内容
農村留学の内容は大きく4つに集約される。
@ 子どもの体温が先生に通じるような小規模校への通学
子どもたちは,センターから地元の学校に通学する。小学校は複式学級で,現在は40名の児童に対し7名の教職員がおり,地域との関わりが非常に強い。小学校の敷地内には保育所や公民館もあり、就学児童の有無を問わず地域の全家庭がPTAに加入、学校行事はPTAとともに企画されている。子どもは地域の宝,小学校は地域の要という意識が強い。こうした,人間関係の中で子どもたちは新しい家族関係を見直すことができる。ここでは,A氏夫婦がご両親に代わってPTAを勤めている。
A 自立心,協調心を育む集団生活
宿舎はA氏の家族(子ども3人)を含め,兄弟姉妹として生活している。年間を通して訪れる農村実習生も含めて約20名ほどのさまざまな若者たちが「大地の学校」というもう一つの学校であり大家族を成立させている。宿舎での掃除、食事の準備・片付けなどといった毎日の家事もみんなで分担し、いろいろな関わりの中から、生活が分担と協力によって成り立っているということを学んでいる。もちろん、これはA氏の育てる力によるものであるが、こうした集団生活の中で、自立心や協調心が育っている。
B 動物の世話や畑の手伝い、生活としての自然体験
現在、牛4頭、馬2頭、山羊1頭、鶏15羽、犬8匹、猫3匹を飼っている。子どもたちは動物の世話を毎朝1時間ほど行ってから学校に通う。また、自家菜園での野菜作りににより,自分たちの食べ物を自給することを体験している。子どもたちの関心や様子などを見て、動物の数や種類を調節し、可能な範囲で生活としての自然体験が実践されている。
C 乗馬・スキー・スケートなど、野外活動としての自然体験
宿舎のまわりには林と牧草畑が永遠と続いている。野に山に川に遊ぶ場所に溢れている。春は山菜採り、夏はキャンプ、秋は釣り、冬は雪遊びと四季を通じて遊びを体験している。また、この地ならではの乗馬体験練習を1年を通じて行い、冬はスキー・スケートを楽しんでいる。近くの凍った湖でのワカサギ釣りも楽しめ、冬も野外活動は盛んに行われている。
(5)年間活動内容
4〜9月の主な活動は、「生活基本訓練」、「みそ仕込み」、「椎茸の植菌」、「畑の種まき」、「山菜採り」、「牧場整備」、「酪農体験」、といった内容が行われている。また、スポーツに関しては「乗馬」、「登山キャンプ」、「渓流遊び」、「釣り」、「キャンプ」、「ハイキング」など多くの内容が常時組込まれている。
10〜3月の冬季といえる期間には「酪農体験」、「畑の収穫」、「山ぶどう採り」、などが活動内容になり、スポーツに関しては「ハイキング」、「乗馬」、「ワカサギ釣り」、に加えメインの「スキー」と「スケート」が行われるようになる。
また、これに加えて学校や地域での活動も多く,こうした活動内容を通じて子どもたちは多くの生活体験やスポーツ体験をしている。
(6)スポーツ体験の実態
活動内容で報告した通り,子どもたちはここで多くのスポーツを体験する。特にここでは乗馬とスキーに力を入れている。乗馬は1年を通じて行われている。馬との触れ合いの中で大地を風を切って走ることの楽しさは、子どもたちのかけがえの投い体験であり楽しみの一つである。また、スキーは初歩からはじめ大会出場を目指している。ここに来てスキーをはじめ、今や地区大会でメダルを取る将来有望な少年もいる。また、ウインタースポーツは地域的に非常に盛んであり、スケートは学校と地域の取り組みとして盛んに行われている。学校にはPTAの方々によって作られるスケートリンクがあり、冬は毎日練習が行われて少年団が結成されている。もちろんはじめてスケートを体験する子どもたちも多くおり、地元の子どもたちに負けないようにと、学校の練習に加え宿舎でも練習が行われている。冬のスケート練習は過酷である。しかし、スケートを通じて地域の人たちと触れ合うことも大きな意義を持つ。
スキーとスケートの取り組みについてはA氏の報告からその現状を見ることができる。
A氏報告[1999年12月05日(日)]
我家から車で30分のところに糠平スキー場がある。全長4.5キロというコースの割には、いつも空いていて練習にはもってこいの場所である。今日は、オープン日。本州から来る留学生にとっては、初めてのスキー体験という子が多いのだが、今年は3人だけで後は上手なものだ。これから、最低でも毎週1回、多くなるとナイターも入って3・4回は滑ることになる。このシーズンだけで本州の子の数年分は滑ることになるだろう。
小学生は、今月中旬ころからスピードスケートの練習もスタートする。ここ十勝地方は、冬季の晴天率が日本一だそうな。厳寒期にこそ野外へ。大地の生活で花咲くのは、実は冬なのである。
A氏報告[1999年12月16日(木)]
今日から、スケート少年団の練習が始まった。この少年団は、任意参加の活動なのだが、事実上北門小学校に通う児童は全員参加となっている。地元の子は、1年生の時からやり始めて6年続けることになる。小学校の校庭に水を撒き続けて、1周200メートルのスケートリンクを作るのだが、雪が少なく日中でもマイナス気温の十勝ならではの風習のようだ。リンク作りは、12月中旬までに1周間ほどで終わり、その後もスケートの刃で傷ついた表面を手入れするために毎日散水車で水を撒く。作るのも維持管理も父さんたちが全員交代で出役を務めるのだが、凍れるこれがまた、中年の体にはきついのだ。リンクが出来たら、こうして少年団という形でスケートの指導が始まるのだが、これも父母が交代で務める。関西育ちのわたしなどは、小さい子の靴紐結びや、寒いからといってベンチで休みたがる子を追いたてるくらいしか出来ないが、地元の父さんたちは、自分も子ども時代に習っているから指導も上手である。とはいえ、私もこうして毎年留学生を連れて参加させていると、指導内容やフォームの見方をおぼろげにでも覚え、最近はうちの子には自分でも少しは教えられるようになってきた。それにしても、この地でのスケートというスポーツの持つ社会性には、もっと注目されてもいいと思う。親たちが一緒になって我が子のみならず地域の子どものことで、これほどまでにも身を乗り出し、かつ、子らを真冬の十勝の厳しい野外の中で育てて行く、私はいつもこのことに敬意を表したくなる。
(7)スポーツと子どもたちの意識
表2に,ここでの生活の様子を交代で書いている小学生の日記をもとに,子どもたちのスポーツに対する意識をまとめた。子どもたちが特にウインタースポーツを中心に活動している内容からどのようなことを考えて感じているかが明らかになった。(太字アンダーラインに注目)
4、考察
子どもたちのスポーツに対する意識分析の結果,子どもたちがスポーツとの関わりで感じていることを以下の三つの内容に分類する事が出来た。
(1)スポーツ達成の喜びやスポーツの楽しさ
スポーツ達成の喜びやスポーツの楽しさを次のような言葉で表している。スポーツの実践について、「とっても、たのしみのようなかんじ」、「楽しみにしていました」、「でも、うれしいことも、あるので楽しみです」と期待している様子や、スポーツ実践の中で技術習得の喜びを「出来ました」、「へへへへへ」、「ヤッター」、「きせき的に出来ました。かなりかんどうでした」、「むずかしかった。ほ〜んの少しなら出来た」と出来たことに対する嬉しさが伝わる言葉が表されている。また、「とてもおもしろい半日でした」、「よかったです」、けっこうたのしいなーと思う」、「とても楽しかった」などとスポーツを行っての感想を素直に表している。
(2)スポーツ条件や気候についての克服
スポーツ条件や気候についての感想および自分への励ましについて次のように表している。特に、この季節のこの場所の気象条件は非常に厳しいこともあり、「とってもさむいらしいので、ぼくじしんも、う〜わさぶそーとおもい、からだ全体がすくんできてしまいました」、「とってもはらがへって、ねむくて、さむくて、やだったけど、とてもおもしろい半日でした」、「つめたくてつかれました」、「寒かった」、「おーさぶー」、「朝は、きついです」、「足が、キーンと、痛みます」、「けっこうたのしいなーと思うけど、寒いのでいやーーーです」、「とてもさむくていやでした」などと多くの気象条件の厳しさについての感想が書かれていました。また、「ちょーつらい」、「すっげーつかれる」、「フォームがつかれた」、「あしがとてもだるかった」、「とても、疲れていました」、「けっこうきつい気分」、「いたかった」、などとスポーツを行う際や行った後のつらさについても触れている。しかし、「がんばるぞい」、「けっこうつかれた。でもぼくは、この冬をがんばろうと思いました」、「がんばりたいです」、「さぁ明日はがんばろ〜」、「さぁ明日もガンバロウ!!」とスポーツの気象条件の厳しさやスポーツのつらさに負けないで取り組もうという意欲も多々見られる。特に、気象条件やスポーツのつらさに対し、「東京に、かえったら、スケートのことなんか、ぜんぜんできないと思う」、「やったことのない、スポーツなんだから、そりゃーやってみなきゃ、いけないし」、と自分自身を励まし「とっても、たのしみなようなかんじ」と意欲に変えている子どもの気持ちは、スポーツを通じて気象条件やスポーツのつらさを乗り越えることで、自分自身が成長していくということを理解し、期待している言葉で表されている。
(3)スポーツでの人との関わり
スポーツで人との関わりを次のように表している。
スポーツを人との関わりの中で行っている言葉が多く書かれていた。友達と一緒にやる様子は、「みんなでかけごえをしながら」、「『一二』とだれかがいうと『一二三四』とみんなでいって」、「1年と一緒に」、「〇ちゃんのしどうもしていた」などとという言葉で、また「一つの組ずつにかだいみたいなのをだします」とグループ学習の様子から「出来なかったらコーチがだめだったところやどうしたらいいかを教えてくれます」と一緒に練習する様子が伺える。
友達の様子については「〇子は『しんどい』と言っていた」、「ちなみにここの人は、ちょうスケート上手&早い!!」、と友たちの状況や評価を表している。さらに、友達とのスポーツの関係で「一番、イカツイたのは〇〇に、サボッていたので(くつはくの)『おい、こら。はよしろ。』とか、みんなで、言った」「いかつきました」「あきれて、注意する気にもなりませんでした」など、自分たちのスポーツを行う際のルールを知り、それを実践していこうという気持ちが表されている。
友達と自分のスポーツ状況の比較については、「〇君より速かったので、うれしかったです」、「〇ちゃんは20周いじょうしているので、(こりゃ、ぜんぜんおいつけへんやん)と思いました」、「無理だけど、〇〇は、ぬきたいです」、「まけたくないです」と友たちを比較対象にしながら、自分の頑張る姿勢が表されている。
地域の人たちの関わりの中で「教わる・学ぶ」という関係が表されていたのは、「おしえていただきました」、「地区の人におしえてもらった」、「〇さんのおじさんにおしえてもらった」、「けっこーおもしろくて、しかもためになるのでかなりよかった」、「とぎかたもおしえてもらいました」、「〇〇さんがきて、色々おしえてくれた」「15分ぐらいのことだったけどすごいためになった」「きびしいけどやさしいみたいなかんじでおしえてくれた。なんか、〇〇さんにおしえられるとぼくじしんも必死になってがんばれる。本当にかんしゃしてる」「すごいためになってよかった!」などと、自分自身がスポーツ技術を習得していく過程の中で、地域の人との信頼関係を大事にしていこうという様子が表されている。また、「転と書かれておしまい」、「けっこーむなしかった」、「ほめられた」、「みんなに言われました」などとまわりからの評価についても自己評価につながる様子が表されている。
5、まとめ
本研究の目的は、留学制度を実施しているケースを取り上げ、特にスポーツを通じての体験的活動の現状と可能性を示唆することにより、スポーツ・コミュニケーション論の可能性を明らかにしてくことであった。
A氏の実践している農村留学の特にスポーツ活動に着目し子どもたちの活動記録からスポーツとの関わりをどのようにとらえ、それを自分と他者との関係の中でどのように評価しているかを検討した。その結果「(1)スポーツ達成の喜びやスポーツの楽しさ」、「(2)スポーツ条件や気候についての克服」、「(3)スポーツでの人との関わり」の大きく三つに分析することができた。「(1)スポーツ達成の喜びやスポーツの楽しさ」では、スポーツへの期待→達成・技術習得の喜び→スポーツ後の楽しかったとの実感、「(2)スポーツ条件や気候についての克服」では、気候の厳しさ→スポーツの苦しさ→克服からの意欲、「(3)スポーツでの人との関わり」では、友達と一緒にやる楽しさ→友たちの評価→友達と一緒にやるためのルール→友達と自分との比較→教わる学ぶ(技術習得過程での信頼関係)→他者からの評価による自己評価、と内容を分析することができた。
これらは、A氏の取り組みである集団生活という基本の上で成り立つスポーツ観であるものの、こうした要素一つ一つがスポーツ・コミュニケーション論に対し重要なキーワードである。つまり、体験学習(集団教育)という生活基盤の中でスポーツ実践が持つ大切な要素が明らかになったと言える。
これらのキーワードを体験学習のスポーツ実践の中で盛り込んでいくことが、今後のスポーツ・コミュニケーション論の可能性を広げる課題であり、今後さらに研究を進めて行く視点であると示唆される。
*表2: 子どもたちの記録
| 11月23日 火曜日 晴れ <小学6年>
今日は、朝にスケートの練習をした。れんしゅうと言ってもスケートのくつをはいてひもをむすんだりぬいでカバンの中に、いれるのをやりました。これを5分でやらなければ、いけません。でも3分くらいで出来ました。ヘヘヘへへ。そのあと、3〇分くらいスケートぐつをはいて、自分の足にならせました。それから、スケートのフォームの練習をしました。これがまたかんたんそうに見えてちょーつらい片足に全体重をかけるのですっげーつかれる。そのあと、もっかいぬぎはぎをしました。それから、みんなでかけごえをしながら、ランニングを3週(さんぽコース)しました。これを2セットしました。ランニングは、つかれなかったけど、フォームがつかれた。でもスケートのため!がんばるぞい。 11月26日 金曜日 晴れ <小学4年>
12月05日 日曜日 曇り <小学6年>
12月09日 木曜日 雨 <小学5年>
12月15日 水曜日 <小学5年>
12月16日 木曜日 曇り <小学6年>
12月17日 金曜日 晴れ <小学6年>
12月19日 月曜日 晴れ <小学4年>
12月20日 月曜日 <小学4年>
12月21日 火曜日 <小学5年>
12月23日 木曜日 曇り <小学6年>
12月24日 金曜日 晴れ <小学6年>
12月26日 日曜日 <小学4年>
12月27日 月曜日 <小学5年>
12月28日 火曜日 晴れ <小学6年>
12月29日 木曜日 <小学6年>
12月30日 木曜日 くもり<小学6年>
|