事業が充実して
    介護時の派遣も可能に
   
原則の徹底と理解が発展への道筋
    (有)鹿追町デーリィーサービスカンパニィ
北海道でもヘルパー事業は多様な展開をみせ、進み始めた。河東郡鹿追町では定休型と緊急型の両面から気軽に頼める酪農ヘルパー組織へ発展した。傷病互助組織にも加入して長期派遣体制を整える鹿追町デーリィーサービスカンパニィのこれまでの歩みと、介護のための酪農ヘルパー対応まで、社長であり酪農家としても活躍する武者毅男さんに聞いた。
              <ヘルパー会社設立10年事業安定の要件とは>

―ヘルパー会社設立は、いつ、どのような形で

武者:平成3年、最初から120戸の酪農家が100万円ずつ出資する有限会社の形でスタートしました。自分たち自身のための組織なんだから、自主運営してみんなが責任をもつという原則を確認し、納得してから始めようということでした。
でも、会社のスタート前の1年間はものすごい論議でした。早朝帰宅して夜明けのコーヒーを飲み、急いで朝の搾乳なんて日が何度もありました(笑い)。思い起こせば「経営の規模拡大や安定維持のためにゆとりは大事であり、ゆとり確保に休日は不可欠。そのことを理解するためのプロセスだった」という気がします。その議論があったから、各農家でほぼ共通の認識にたつことができ、その後会社運営、つまりヘルパーサービス内容と社員の福利厚生面
の充実に力を注ぐことができたんです。

―サービス内容の充実とは
武者:うちのサービスは、夕、朝型の2人派遣が基本ですが北海道平均は1,4人派遣。ということは費用負担が少ない1人派遣が半分あり、現状では家族1人が休みを取り、残った家族1人とヘルパー1人が作業をしている例が多いと思います。鹿追町としては家族一緒に休日を取ろう、ゆっくり体も頭も休めようという発想が基本です。専任ヘルパースタッフを社員として16人雇用しています。うち3人は緊急派遣要員で、農家が傷病した際1ヶ月〜6ヶ月に渡り1人派遣できる態勢を採っています。

―実際にどんな利用状況か。

武者:定休型が原則なので、年度始めの4月までに毎月2回何日と何日と農家の希望により決めますが、13年度は週1回の定休型を希望する農家が約10l となり、ヘルパー社員の増員が必要となりました。会社の事業としては、内容が良ければ利用が高まるのが本筋です。利用申し込みが少なくて、農家に割り当てて取らせるというのは主客転倒ですね。
休日を取り、ゆとりが出てくると、女性達の顔つきが違ってきます。農協女性部とは別に、うちの会社にも女性部があり、酪農女性達年2回親睦会を開き、ヘルパー事業について提案をしてもらったり会社から説明したりするなど、遠慮なく活発に話し合う会になっています。



                 <利用を高めるには信頼と安心が原則>

―料金が安いから利用が多いのか。北海道の標準は2人派遣で搾乳牛50頭、乾乳牛8頭、育 成牛16頭規模なら2万5千円といわれるが。

武者:わたしは2人目の社長として平成5年から務めていますが、会社スタートから10年、他の地域と料金面だけから比べると安くはないと思います。2人夕・朝派遣で同規模の場合、うちでは32,000円ほどになりますが、1日の標準的な牛舎作業をすべてカバーした料金です。先ほどお話したように、事業としての原則を貫き、料金を安く設定→赤字になったら値上げ→利用減少というパターンは最悪と考えています。
休む限りはヘルパーに安心して任せたほうがいい、そのためには相応の費用を支払うべき。大半の農家は、十分使える機械の更新や過剰な投資を抑えれば、ヘルパーへの出費は安いと考える方向でまとまってくれました。
また、補助ヘルパーへの後継者登録制度は、青年たちが家の忙しい両親に遠慮しながら他人の休みのために出役してもらう形になり、中途半端になりがちで最小限に抑えています。

―親の介護のために休む場合にもヘルパーを長期派遣してもらえるのか。

武者:うちのヘルパーシステムは原則として、高齢者でも、哺育なり、育成なり、エサやりなり、どんな軽作業であっても手伝っている家族はみんな、作業従事者として登録しています。
高齢の両親が倒れた場合、その方へヘルパーが1人派遣される形になり、経営主の奥さんもしくは経営主が長期間介護・看護することが可能となります。実際には、経営主の姉妹・兄弟などが交代で介護などに当たるケースが多く、今までは介護のための長期派遣例はあまり多くありません。経営主が病気で6ヶ月間派遣という例はありました。傷病への長期派遣の場合も通常料金と同額ですが、互助組織からほぼ半額が助成されます。


            <ヘルパーを育てるため農家へ説明と理解が必要>

―具体的に、ヘルパー社員の福利厚生面の充実とは。

武者:基礎からで恐縮ですが、ヘルパーは自分たちが休みを取り、遊びに行ったり、気分転換するために来てもらうんです。作業をしてもらったり、人工授精や検診の立会など、安心して経営主の代わりも務めてもらおうとしう発想のシステムです。
大事な仕事を任せるヘルパーですから、都市に比べて休日や住宅、生活条件が極端に劣っていては農家としては心もとないし、社員の定着が悪くなります。
ことしは社員住宅を2棟8戸、約2,500万円の費用を見込み建設中。会社では計画を練り、投資者である農家に、どんな経過でどう資金のめどを立てたかをきちんと説明しています。


            <事業の発展の選択肢は原則の徹底、技術と人>

―今後、職域の拡大を検討するヘルパー組合も多いと聞くが。

武者:確かに他の組合では経営収支を改善するため、ヘルパー作業以外の業務を検討したり、酪農家以外の農家支援、酪農専門作業で人工授精や削蹄などの職域拡大を考えているところもあるようですね。うちではヘルパーはこれまで通り酪農作業に限定し、原則を貫き農家から信頼されるよう、技術と人格を高める方向で育てていきたい。
酪農は大規模になるほど専門家同士の役割分担と連携が大事で、多様化に向け農家と農協の営農指導者、技術普及員、ノーサイ獣医師、さらに専門アドバイザーとが協力を深め、レベルアップが必要と考えています。
事業収支のために手を広げるより、人も技術も信頼されて利用が高まり、その結果として収支もよくなるようにしたい。
ヘルパー事業経営は、一定料金をなるべく続け安定させ、その後少しずつ下げていけるのが理想なんです。でも現実は厳しく、出資金の積み立て利子配当がご存知のように予想を下回り、余裕は出てきませんが、人を育てることを優先させています。
うちは農家が経営する農家のための会社です。今後は内容を高めて料金を下げ、経営も安定させたいとわたしは思います。
夢みたいな話になりました・・・。