
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
絶対に加熱殺菌はダメだ! 保健所とのかけひき十八年前の夏、「森の精」の工場の許可申請を出す前に保健所に相談に出かけました。 私はでき上がったばかりの、琥珀色の液体が入ったワイン壜を持っていました。 『保健所の許可さえ取れればしめたものだ』という試用した何人かの意見と感想を得ていましたから、申請した際に問題になる点、大方承知してはいたが、それを直接先方に指摘してもらってクリアできそうな突破口を模索するため事前訪問したのです。。 『敵の懐に飛び込めば打開策も見つかるかもしれない』そんな思いで保健所を訪れたものでした。 食品衛生法では、『酵素飲料』は許可されないことは知っていました。 そもそも『酵素飲料』というものが、分類の中に存在しないのですから。 先発の酵素飲料の多くが、保健所との間に厳しい見解の開きがあって、許可を受けるためには本質に関わる妥協を余儀なくされていたのです。 結局は酵素の底力を発揮できない「殺菌済み」にさせられ悔し涙を飲んでいることを知っていたのです。 北海道の「O社」、山梨県の「F社」も、結局のところ『清涼飲料』に甘んじていました。 殺菌問題をクリアできる秘策はないものか、そのころ私は寝ても覚めてもそればかりを考えていたものでした。 原料、製造法、いかに酵素が健康維持に必要か、そして健康食品として販売したいことなどを説明しました。 田舎町の保健所では、やっと意識され始めた「自然食品」「健康食品」という概念も、ましてや『酵素飲料』に関する相談、申請など、未だなかったことでしょう。応対の若い所員では到底判断できることではなかったようです。 応援を頼まれ呼ばれてきた年配者の所員は、テーブルの上に置かれた『森の精』を早速手にとりました。 「ジュースみたいなものですか」 「いえ、漬物汁です」 「これを販売する、ウーン…」 「…そうです」 「壜に入ったこの形態だと、どう見ても消費者にはジュースか清涼飲料水に思われますねー。加熱殺菌してありますか」 「いいえ、殺菌しては存在意義がなくなります。それはできないのです」 「飲み物でしたら、ほとんどは清涼飲料水に該当するわけで、結局、コーラやサイダーと同様に加熱殺菌しなければなりませんねえ」 『冗談じゃない!コーラやサイダーと一緒にされてたまるか!』と内心は叫んでいた。 生きた酵素の必要性やいかに健康に寄与できるかを、気を静めながら長い時間説明した。 なんとしても殺菌はできない。 殺菌した酵素では騙しになるのだ。 「しかしこのままでは、現在の法規上許可はできないでしょうね」といいながら、熱を帯びた私の説明に少しづつ共振しだしたか、折角開発したのだから世の中に出したいでしょうね、などと心情的にはかなり歩み寄りも感じられました。 どういった販売形式でいくつもりかとか、現在はどうしてるのか、というさぐりも入れられた。 確かに試作しているものは親戚知人に無料でモニターしてもらっていましたが、正式に販売できるようになっても、一般の食品店や薬局に出す考えはありませんでした。 殺菌しない「生」のものだから冷蔵保管が原則だし、生鮮品ほどではないにしても賞味期間、使用期間は決して何ヶ月もあるわけではない。私自身が直接管理できる形態が望ましいと思っていました。 一番いいのは「会員制」だと考えていました。 それら私が思っていたことを正直に話した。 ところがどうゆう訳か、殺菌して瓶詰めまでする「自動瓶詰め機」を遊ばせてるところがあるから、紹介しましょうか、という話になってしまいました。 絶対に無殺菌にこだわっていましたから『殺菌しなければならないのなら製造も販売もしない』と主張し、改めて出直してくるといって帰ってきてしまったのです。 後日、行政の裏側を熟知する知人は 『そんな機械はいくらでも温度を調節できるだろうし、保健所なんて一応の設備さえしてあって、事故がないならそれでOKなんだよ。《あとはうまく運用して》という含みだな、それは。 結構、好意的に考えてくれた人じゃなかったのかな』と。 会員制で、いわば同好の士が納得して使うなら、多少大目に見てもいいのじゃないかという、判断だったのではないかというのです。 その時の私は相手方の気持ちまで裏読みできる余裕もありませんでしたし、先発の酵素屋の苦悩を知っていたから、何がなんでも直球勝負と思いつめてもいました。 「森の精」を身近な人々に試用してもらって、その驚異的な効果を知っているだけに、保健所のいう「殺菌」は絶対に妥協できることではなかったのです。 『これほど素晴らしく役立つものを神様がむざむざ捨てさせるわけはない!』 『殺菌なしでお客様にお届けできる方法が、必ずあるはずだ!』 そればかりが頭の中を駆け巡っていました。 兄弟から都合してもらった資金で小さいながらも工場は出来上がっていました。 早く製品を世の中に出さなくてはならない。 酵素飲料は、日本の伝統的な発酵技術から生まれたものですが、酒の醸造から見れば実にシンプルで、むしろ漬物そのものです。 しかし「漬物業」ではイメージ的にはマイナーな感じが否めないでしょう。 劇的な改善例を目の当たりにしているだけに、沢庵やナスやキュウリの漬物と同列というのは何とも淋しく感じたものです。 そんな思いが強く取り付いていたかもしれません。 しかし冷静に状況を判断するなら、人に役立つものなら何業だろうがこだわるべきではなかったでしょうし、何よりも世の中に広く知ってもらうことが重要なはずでした。 幾日か眠れない夜を明かしたある朝、気持ちに変化が起きていました。 少しずつ覚悟ができてきたというのでしょうか。 『漬物なら、殺菌しろとはいわぬだろう』 『漬物業』として申請しても何ら虚偽にはならない。 それに元々、漬物は家庭でもできる簡単な食品加工だから、金のかかる機械や設備も義務づけられることもないだろう。 壜に「漬け汁」だけを詰めたから、「飲み物」にされてしまったのだ』 『シイタケのどっさり入った絞る前の状態なら、だれも『漬物』で文句のつけようがないはずだ』 『最悪でもこれでいけるじゃないか』 そう自問自答すると、気持ちが軽くなりました。 「よし、今日、申請に行こう」と決意しました。 ところが思わぬ幸運の女神というか、天からの知恵というのか、十勝川にかかる今は美しいアーチ橋になっている十勝大橋を走っている最中に、あれほど悩んでいた、「漬け汁」だけを瓶詰めにして殺菌問題をクリアできそうなアイデアが、突然閃いたのでした。 「腹をくくると気持ちが自由を取り戻す」といういい例かもしれません。 保健所はその橋を渡って二、三区画の所にあります。どん詰まりの瞬間にも天は私に勇気をくださったと感じました。 そのアイデアのもとは『能登の浜塩』というものでした。 当時、塩はまだ専売法で製造販売が日本専売公社に限定されていました。 製造法も能率のよいオートメーションの「イオン交換法」という、ほとんど純粋の塩化ナトリウムだけが作られる化学工場になって、「にがり」成分を含んだ天日製塩などの昔ながらの塩がまったく無くなっていました。 専売法が存在する以上、民間人がたとえどんな方法であれ塩を作ることはご法度であり、それを販売することも違法行為にされていたのです。 昔ながらの技術を伝承したい一人の製塩家と、健康にいい自然の塩を求める人々が、『能登の浜塩保存会』を作り、会員制でやっていた塩の頒布法を思い出したのです。 その方法とは、塩の中に「一枚の塩ワカメ」の切れ端をいれたのだ。 塩を頒布しているのではない、塩ワカメを頒布してる、ということです。 それはたとえ詭弁のようであっても、本当の狙いと、人類のためにという願いが通じる人々がいくらかでもいれば、結構世の中、捨てたものじゃないじゃないし、簡単にあきらめちゃダメという例かもしれません。 私は、これに倣って一切れ二切れのシイタケの切り身を入れた「漬け汁」の瓶詰めアイデアを思いついたのでした。 |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| ご意見ご感想をMAILいただければ幸いです。 |